2012/08/26
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もっと簡素に作りなさい

これから同人ノベルゲームを作成しようとする人々に、ここで一言物申す。 それが表題、「もっと簡素に作りなさい」だ。

ノベルゲームを作ろうとして失敗する原因の一つに、「過剰な演出要求」 「過剰なゲームシステムの作りこみ要求」がある。せっかく自分たちでゲームを 作るのだから、モノスゴカッコいい演出とか、スゲー使い易くて見栄えのいい システム画面とか、そういうのを作りこみたくなる気持ちはよくわかる。 実際そういうのを作ってあると、「うーんオレタチ作ったなぁー」という 達成感もあるしね。

しかし、そういうのを作りこむのには、センスと、人員リソースという二つが 両方必要にあることを決して忘れてはならない。そして、多くの同人サークルには、 これらが十分に存在しない(両方あると豪語できちゃうサークルには、殆どの場合 現実を正確に把握する能力が無い)。だから、演出やシステムに対して過剰にハードルを 上げると、大概製作に失敗してしまうのだ。こんなカンジに。

人員リソースについてはなんとかならなくもない。もっと簡単に派手なことができる ゲームエンジンに乗り換えればいいのだ。しかし、KAGからKAGEXに乗り換える、 あるいはNscripterに乗り換えるというのは、結局スクリプトの組み直しになり、 それはそれでかなりの人員リソースが必要になる。ゲームエンジンは、 ゲーム作成の前段階でばっちり決めておくべきだし、そうでなければゲーム作成に 取り掛かってはいけない。最初決めたものをひっくり返してはならない。

じゃぁどうする? 答えは簡単だ。「割り切れ!」。これに尽きる。 派手な演出やイカしたゲームシステムなんか二の次でいい。 ノベルゲームを作るんだから、リソースは、シナリオ、ストーリーにガッツリかけろ。 それがノベルゲームの核なのだから。

たかが、という言葉に悪い印象を受ける人もいるのは十分承知した上で、 あえて書く。「たかが」同人ノベルゲームで、スバらしい演出とかモノスゴい 画面効果とか、そんなものは実はユーザにとってはどうでもいいものだ。 ユーザは、泣いたり、笑ったり、興奮したり、考えさせられたり、同情したり、 つまり感情を揺さぶられたくてゲームをプレイする。決してスバラしい演出や イカすシステムを見たくてゲームを手に取るわけじゃない。それらは手段であって 目的ではない。ノベルゲームの目的はあくまで「プレイヤー(=ユーザ)の心を 揺さぶること」。それを決して忘るることなかれ。
※商業は少し違う。そっちは「売る」という目的のために あらゆる努力が必要だから。ユーザに感動してもらうのは手段だしね。
※※同人でも、「コレは俺の自己満足のために作ってるんじゃーい!」 という人はまた話が別。だったらこの文章読む必要まるでなし。

キミが作っているものは「ノベル」ゲームなんだ。ノベルなのだから、ストーリーで 勝負するのは当然。それがカンペキでなければ、どんなにスバらしい演出だろうが ゲームシステムだろうが、プレイヤーの心を掴むことはできない。ノベルゲームは、 シナリオ以上の評価を得ることは絶対にできないのだ。まずそこに注力せよ。 演出だのゲームシステムだのは(誤解を恐れずに言えば)どうでもいいのだ。

「いや、それでも演出は大事だ! ショボい演出でユーザがストーリーに のめりこめなかったら元も子もないじゃないか!」という意見があるのも理解する。 理解はするが、賛成はできない。極端な例を出していいのなら、「小説」という メディアの存在がそれを否定してくれる。ストーリーだけを純粋に活字だけで表現した メディアには、演出だのゲームシステムだのは一切ない。無いのに、人の心を 動かすことができる。つまり、ストーリーだけでもユーザの心を掴むことは 可能だということを表している。
「小説はノベルゲームとは違うだろ! そういう考え方だからノベルゲームが 進化しないんだ!」…とか憤る前に、もう少し冷静に両者の共通点についても 考えて欲しい。ストーリーを読ませるというその一点においては、両者は(というか 映画も漫画もゲームもアニメも全部そうだけど)同一のものだ。そして、それが つまりそれら全てのメディアの核であることが、はからずも証明されている。

だから、同人ノベルゲームであっても、「ストーリーを魅せる」ということに まず専念すべきなのだ。演出もシステムも、最低限のものがあればいい。ユーザが プレイしてて「うざったいなー」とか「不便すぎて死ぬー」とか 「うわー全然文章と合ってねー」とか 思わない程度の、最低限のものがあればそれでいい。
それに、演出やシステム画面は、後からでも作りこみや変更が比較的容易だ。 ウォーターフォールモデルに則らなくてもいい稀有な箇所だ。おざなりにしろとは 言わないが、最初からカンペキを目指す必要はないのだ。

スクリプタの人へ。とにかく「自分で作らない」ことを心がけよう。 ゲームエンジンの標準的な機能で実現不可能か? とか、他人が作ったプラグインや アドオンが利用可能か? などを最初に考慮し、可能なら積極的に利用させてもらおう (アドオンの場合はライセンスをちゃんと確認してね)。 「自分で作る」ということに拘っても、最終的にそのゲームをプレイするユーザには 何のメリットもない。「作る」という作業には、あなたのリソースを消費するという 意味がある。本当にその作業は作成中のゲームに絶対必要なのか?  もっと省力化できないか? ということは常に考えるべきだ。ここでも、目的を 見失ってはいけない。スクリプトとはゲームをプレイさせるための下支えでしかなく、 その努力はユーザに見せてはいけないものだ(もし見せてしまえば、それは単なる 自己満足か自己顕示欲だ)。 ユーザに見せるべきは、あくまでストーリー。 キミのその作業、ストーリーには関係ないし、 ユーザの使用感をぐんと上げるのでなければ、 今そこでキミが作りこまなければならない理由はない。 自らのプライドのためだけにモノを作ってはいけない。
※いや、同人の世界だから自分の好きに作ればいいじゃん、という話もある。 でも、ユーザはそれを望んでない可能性が高い。だったら、そのことを パッケージにでも書いておけばいい。「ストーリーはあんま練ってないけど、 演出とかはスクリプタが自己満足のために無駄に作りこみました!」。 それで正々堂々勝負してみようよ。そういうニーズもあるにはあるしね。

例を挙げよう。セーブ・ロード・コンフィグ画面。本当にそれはキミが作らなければ ならないものか? 既に誰かが作っているものがそのまま流用できないか? あるいはカスタマイズしたら利用できないか? そういうことを事前に調査したか? 「一般的に使われてるのを使って、他のゲームと一緒だとカッコ悪いからー」とか、 それは作る側の(というか多くはスクリプタ一人の)論理(というかワガママ)であって、 ユーザの利益を追求したものではない。他のゲームと同一の画面が表示された からといって、ユーザは何も感じない(ショボッ!と思うのは、それがどう実現されて いるかを知っている人、つまりごくごく少数だ)。 いや、「あ、この画面見たことある。こう操作するんだよね」なんて、 マニュアル要らずという副次的な効果も望めてなお良い影響があると考えるべきだ。

むかしむかし、あるところにあるゲームがあった。今でも語り草になるほど、 音楽「だけ」がスンバらしいゲームだった。本編はアクションゲームだったはずで、 しかも後ろのプログラム的にはかなり凝ったことをやってたはずなのだが、 結局それは何の話題にもならなかった。音楽「だけ」は現在にも語り継がれて いて、YouTubeなどでも全曲ばっちり聞けたりするのだが、逆にプレイ動画の 少ないこと少ないこと。検索してみればわかると思う。 …いや、The Sch○me なんだけど(○はわずかな良心)。

…で、キミが作りたいノベルゲームというのは、 こういう「本編とは無関係なカンジに後世に残るもの」なのか? そうだと言うなら止めない。是非シナリオをおざなりにしつつ、 システムや演出を凝りに凝ったゲームを出してみて欲しい。 我輩は個人的にはそういうのに興味があるので、早速体験版でも ダウンロードして中身をゴニョゴニョして参考にさせてもらう故。 でも、ソレが名作として語り継がれるかどうかはまた別問題だ。

最後に、とどめ。「同人ノベルゲームの世界で、名作と誉れ高い作品」をいくつか 挙げてみよう。そして、それらに「モノスゴい演出が作りこまれていたかどうか」を 考えてみよう。それは何パーセントくらい? 半数以上ある?
…さて、キミはそれでも、ストーリーをないがしろにしつつ 演出やゲームシステムを作りこみたいと思うか?


以上は、「吉里吉里/KAGは低機能だからクソゲーしか作れない」 というのを見かけたので、いやいやそうじゃないだろう、という反論のために書いた。 特にノベルゲームの場合、そのゲームがつまらないのは作る人の力量の問題であって、 システムの優劣とは殆ど関係がない。なかんずく「同人」に限れば、 NScripterも吉里吉里/KAGも、(演出やらシステムやらに拘らなければ) 一作製作する上で十分な機能を既に持っている。そして、演出やらシステムやらに 凝らなくても、名作は作成可能だ。それはシナリオ、ストーリーの出来に大いに 依存している。

いい道具を使えばいい作品が出てくるのではない。(ユーザにとって)いい作品とは、 それが何で作られていようが、ユーザが楽しめること、なのだ。 いい道具を使うことを否定するわけではない。使えるならバンバン使えばいい。 でも、それと出来上がったゲームの優劣とは関係が薄い、ということ。


…で、これだけ書いて我輩が言うのもアレだけど、我輩にはストーリテリングの 能力はないので、我輩は我輩が出来ることを粛々とやるというスタンスで、 プラグインやら文書やらを書いている次第。名作と呼ばれるゲーム、作ってみたいよなー。